■ 経過報告 2000年10月

 
2000年10月の始め、こんなメールが入りました。
「以下の犬たちを助けてください。里親も全くいない状況です」
そして、その後にはいわゆる純血種の立派な犬種がずらずらと書き連ねてありました。約80頭は書かれてあったでしょうか。

詳細が分からず、とりあえず問い合わせてみることにしました。その犬たちはペットショップ兼繁殖業者が所有している犬とのことでした。その時点でのショップの自称整理係は「自分は犬が好きで、犬のためにと思ってしてきたことだったのだが、資本を出すと言った社長が逃げてしまったので、残務整理のために残っている。たくさんいる犬たちも現在の経済状況では手放さざるを得ない」と言いました。

犬たちはショップを含め、3ヶ所に分けられて収容されていました。所有者は満足にフードを買い与えることも難しい情況でした。世話をしている従業員たちには未払いが続いていました。
それらの犬たちはテーマパーク型動物園等のイベントに使われ、いろいろなところを引き回されてきたそうです。でも、現状はほとんどの時間を狭いケージの中で過ごし、糞尿は垂れ流し、出産可能な犬は妊娠させられ、途中病気で亡くなった犬も少なくありませんでした。
約80頭もの犬を集めた山中の飼育場の一ヶ所は、人手が回らないため糞尿の臭いと、ストレスを溜めた犬たちのワンワンギャンギャンという鳴き声で溢れており、見るに耐えないすさまじい状態でした。そこには主に大型犬が集められ飼育されていました。
一日中遠吠えを続けているハスキー達、後ろ足がX(エックス)脚状態に曲がったGデーン、背中がつっかえる程の狭いケージに閉じ込められたボルゾイ、また、皮膚病の治らない犬や腫瘍の出来ている犬も少なくありませんでした。
とにかく少しでも状態を良くするために、私たちは自分達で買ったフードを車に積んで現場に通いました。まったく手探りの状態で出来ることを探し、ケアを続けてきました。

当のペットショップはというと、今なお開業しています。彼らは不要の犬たちについてのみ保護団体に声をかけて保護救済を求めており、販売可能と思われるような犬たちは「手元に置いておきたい」という意志を示しました。不必要なもののみ、お金をかけずに処分したい、というのが本音としか思えない状態でした。
どのような保護をするにしても、まず必要なのは全ての犬たちのリスト作成でした。
糞尿の掃除や、世話をしながら作成した犬リストは最終的に200頭分を超えました。

さて、問題はいらない犬たちだけを救えば解決するという性質のものではありませんでした。というのは、まず保護をするということの問題です。
気楽な愛犬家の市民サークルである私たちとは違い、保護団体という看板を掲げてしまっている方々は大変だと思います。保護団体ともなれば、無計画で検査も適性も何も無い繁殖者に対しては、それを問題視し、制限を設けたり撤退を要求するのを基本理念となさるでしょうし、実際にそうしているところは少なくありません。 生体流通業者に対しても同様の態度であることが前提となるでしょう。実際、悪質な業者によって放棄される犬たちの数は眩暈がするほど多いのです。目の前の犬たちだけを救っても、それを行っている人がいる限り、同様の悲劇は繰り返されてしまいます。
そうした実状がある上で、ショップが運営されている状態で不要犬のみを救出するということは、違う見方をすれば、そのままショップの支援となってしまう恐れもあるという指摘を受けました。

私たちは世話をしに行く度にそのことを話し合いました。実際に一部の保護団体からペットショップを擁護するのか?というような誤解を受けてしまっているのも事実です。
ですが現場に世話をしに行くと、一生懸命自分の存在をアピールし、身体をくねらせ、ケージから出してもらおうとする犬たちがいるのです。食餌の時間だけを一日の喜びにしなくてはならない犬たちがいるのです。1頭が哀しい遠吠えを始めると、続いて皆が泣き始めるのです。ストレスや不潔な環境で血便になる犬たちがいるのです。諦めたような顔をして食事をとらず、ガリガリに痩せていく犬もいます。彼らは好きであんな所にいるわけではありません。彼らをあのようなひどい環境に押し込めているのは、他ならぬ私たち人間なのです。

そんな犬たちを見捨てることは私たちには出来ませんでした。そして私たちはとりあえず犬たちが幸せな状態になるために、自分達に出来ることをしようと決めました。
ですが、私たちはフード会社へのコネクションもないような、一般市民が集っているだけの小さなグループです。この状態で公に支援を募ることにも抵抗がありました。取り急ぎ私たちに出来たのは、すぐに動ける仲間たちの時間と労力を割くということだけでした。基本的に全てにかかる諸経費が個人負担でまかなわれました。
でもこちらの懐具合など、犬たちは待ってくれません。結局個人で負担するには出費と労働力の提供が大きすぎました。途中、サークルで主催しているML(メーリングリスト)の仲間たちに泣きつき、支援を募ってしまいました。とりあえずこれでガソリン代や高速費用はまかなえることになりました。同様に直接犬舎掃除に参加できない仲間たちから、フード提供などの個人支援も出てきました。本当に恵まれた犬たちです。ありがたいことです。

私たちはとにかく里親先や保護先に迷惑が及ぶことを絶対に避けたいと思っていました。ですので、書面での合意や正式な依頼書が無いうちは、とにかく仲間からの提供によるフードを車に積んで、人手不足で回らない犬の世話に尽力しました。犬たちのライフラインの確保と法的に有効な書類の取り交わしを第一に考えました。
遠くから何度も足を運び、実際に掃除や世話をしている私たちに対して、所有者も信頼し始めたのか、10月27日には保護依頼を正式な形で申し込まれました。その書類は弁護士によって保護者や里親先に一切の迷惑がかからないことが記された、法的に有効なものです。 平行して、犬たちの簡単な健康診断を行うため、獣医師の方々が遠方からボランティアで駆けつけてくださいました。200頭近くの犬の、1頭1頭を触診し、糞を調べ、状態のチェックをする作業は、本当に大変な作業だったと頭が下がります。

10月28日には一回目の一時預かり出所がありました。ここの犬たちはみな、人には馴れていますが、家庭犬としては難しいものがあります。そこで現場の世話に参加できない遠くに住んでいる会のメンバーが、一時預かりを申し出てくれたのでした。今後、一時預かり先でハウストレーニングを行わなくては里親に渡すことはできません。そこでまず、メンバー内で一時預かりを試行して、現実の問題点を洗い出す必要がありました。同日に出所していったのは3頭だけでした。本格的なレスキューはこれから始まるのです。

今後の対策も合わせてたくさんのことを計画実行しなくてはなりません。
現在犬たちが収容されている場所は、元所有者の出資者の賃貸名義です。賃貸料も払われていません。また、犬たちは毎日大量の糞尿をします。それらは産業廃棄物です。
水は毎日必要です。犬たちの飲料水のみならず、犬舎を洗ったり、食器を洗うにも水は必要です。これから寒くなります。暖房の必要性も出てくるでしょう。現在収容されている場所にはお湯も暖房設備もなく、吹きさらしの状態です。

こうした環境で、1日の大半をケージの中で過ごしている犬たちにストレスがたまらないはずがありません。未払いが続き次々と辞めていく従業員の方達の中で、自分達までいなくなったら犬たちはどうなってしまうのだろうという責任感と、犬たちを愛する気持ちから残ってくれている数名の方達は、足りない人手をカバーするため、無休で必死に頑張っています。経験不足の私たちボランティアに効率的に世話をする方法を指揮してくださっています。それでも週日に出られるボランティアは1〜2人が精一杯で、人手が足りない今、犬たちのストレスを緩和させるための対策が取れない現実に口惜しい思いをしています。

私たちは友人、知り合いといろいろな人にこの状態を話しました。良い知恵を授けてくださる方、状態を知って支援を申し出てくださった方、マスコミを通じて支援の呼びかけを考えてくださった方と、たくさんの方々から励まされました。

そしてマスコミの反響の大きさというものをはじめて知りました。放送後、支援したいので連絡先を教えて欲しいという視聴者の方々からの電話が鳴り止まなかったそうです。個人負担で行っている保護ですので、新しく電話を設置する余裕もなく、当然、現場で犬の世話をしている間はお話している時間もありません。そんな状態を理解していただき、何とかインターネットのウェブサイトを開設するはこびになりました。
今現在もまだ専任で連絡を受けることができる人の余裕はありません。とりあえずFAXの一台は設置したいと考えています。留守番電話に入れていただいても、おそらくそれを聞いてお返事する時間が取れないと思います。実際、一人一人の負担が大きすぎて、寝る時間も食べる時間も削られている状態です。

こうした状況をご理解いただいた上、これから始まる元イベント犬たちの保護を応援してください。
こちらのBBSでは元イベント犬を救え!プロジェクトチームのメンバーができる限りの応答をする予定でいます。どうぞ、ご活用ください。
そして、一日も早く人と動物がお互い幸せな形で共生できる社会になれるよう、皆さんの力を貸してください。
長文を読んでいただき、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いします。

元イベント犬を救え!プロジェクトチームメンバー 井上由理



追伸: 私たちの力が及ばず、保護活動を待てずに逝ってしまった以下の犬たちに対し謝罪と共に、冥福を祈らせていただきます。
 

 
保護前過去一年の間に亡くなった犬たち
 
  (協力・元従業員現チームメンバー竹村<就労年数1年)  
 
1999年
10月 チョビ ハスキー ジステンパー 享年5ヶ月
チャッピー G・R 乳腺腫瘍 不明
ダンヒル ポメラニアン 発作 不明
12月 レオン ハスキー 不明 享年7ヶ月
ジャッキー G・シェパ 同上 享年10ヶ月
ミント アフガン 同上 享年8ヶ月
ロイ ミックス 同上 享年6ヶ月
ロミオ ダックス 同上 不明
2000年
2月 ブロウ Tプードル 皮膚疾患 不明
3月 モカ Tプードル 不明 享年4ヶ月
クリスティ Gデーン 不明 享年8ヶ月
4月 花子 アキタ 乳腺腫瘍 不明
5月 ココ ヨーキー 皮膚疾患 享年5歳
千春 Gデーン 高熱 享年5ヶ月
6月 アイ ヨーキー 窒息死 享年5歳
リオン Tプードル 不明 享年4ヶ月
ジン IWハウンド 肺炎 享年1歳半
7月 シシマル Wコーギー 乳腺腫瘍 享年7歳
8月 ジェニー Gデーン 不明 享年7歳
10月 アール Gシュナウザ 癲癇様発作 享年4歳
マーク ハスキー 会陰ヘルニア 不明
他、仔犬 約50頭
 
  2000年10月現在