初めて犬舎に入った時、喧騒と悪臭の中に多数のハスキーたちがいるのが目立っていました。
ハスキーブームと呼ばれた時代を過ぎ、ブリーダーの手に余った彼らは、挙句の果てに悪質な業者の手に渡っていたのでした。イベントに引き回され、繁殖に利用され、狭い檻に閉じ込められ、日々を過ごしていたのでした。

正直な話、あれだけのハスキーたちに、ちゃんと家が見つかるのだろうかと不安でした。中でも老齢だった子や、病弱だった子については、本当に難しいと思っていました。



レイちゃんは、そんな高齢で病弱だった子でした。
身体も小さく、みすぼらしく、毛もまばらな汚れた子。それがレイちゃんでした。

発作を持ち、ボランティアの獣医さんの検診で乳腺腫瘍が見つかり、摘出手術を施したところ、悪性だったレイちゃん。早い時期から入院し、ほんの二ヶ月くらいしか一緒に過ごせなかったレイちゃん。
それでもレイちゃんの印象は、とても強いものでした。レイちゃんは、犬舎の時から、天使のように優しい目をした子だったのです。

黒目勝ちの微笑んだような目をしたレイちゃん。
どんな子と一緒のサークルに入っていても、けっしてケンカにならないレイちゃん。
みんなからマウントされても、ちょっと哀しそうな顔をして、それでも決して怒ったことのないレイちゃん。一番、みすぼらしいハスキーだったレイちゃん。

でも、みんなレイちゃんが大好きだった。



安いドッグフードのゴハンさえ、ワゥワゥ言って足踏みしながら待ってくれたレイちゃん。

サークルに出すとき、勝手に好きなところに行ってしまおうとしていたレイちゃん。

おしゃべりレイちゃん。

ニコニコレイちゃん。

あんな環境ですら、レイちゃんの微笑を消すことは出来ませんでした。



でも、犬舎の頃のレイちゃんの微笑みは、いつもどこか哀しい翳りを帯びていました。






だけどレイちゃんは
  レイちゃんを待っていた家族に
    出会うことができました。

暖かい愛情に包まれて、
  日々を過ごせるようになりました。

そして、誰もが予想もしなかったくらい、
 本当に美しい子に変身しました。

家族の元でのレイちゃんは
 ちょっと小ぶりの美しく優しいハスキーでした。

暖かい家族に囲まれたレイちゃんの笑顔に
 もはや翳りはありませんでした。

控えめな微笑みは、輝く笑顔になりました。
入院先から直接家族の元に行ったレイちゃん。

いってらっしゃいも言えず
 ただ遠くから幸せを祈るばかりだったレイちゃん。

日記で幸せそうな様子を知るたびに、神様を
 信じたくなる気持ちにさせてくれたレイちゃん。

本当の家族に出会うことができたレイちゃん。

辛い発作の時にも、そばについていてくれる
 家族に出会えたレイちゃん。

たくさんのことを教えてくれたレイちゃん。


ありがとうレイちゃん。


虹の橋で、神様の横にちょこんと座って微笑んでいる様子が想像できます。


行ってらっしゃい。レイちゃん・・・
レイちゃん。また逢おうね。



…God spoke, 'of all creation you live nearest to the noble heavenly traits; and so my name I backward gladly spell and call you DOG.' Anonymous, from How the Dog was Named. …神は言われた。あらゆる創造物のなかで、なんじほど気高くて神々しい資質 をもつものはいない。 ゆえに、わたしは喜んで自分の名前を逆につづり、なんじをDOGと呼ぼう。
作者不詳「どうして犬となづけられたのか」より




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